ネットワーク その9 究極の圧縮方法

今まで紹介してきた狡猾な圧縮方法より効果的なデータ圧縮方法があります。それはデータ自体を送らないということです。

もちろん、まったくデータを送らないのでは相手側との同期ができません。でも、時には同期すること自体が重要ではない場合があります。

2つのルール

  • ゲームプレイに関連するものは同期しなければならない
  • 殆どの物はゲームプレイに関与しない

 

効果音やアニメーションは殆どの場合は同期する必要がありません。もし、ネットワークを介してキャラクターが前に走って移動する場合、それぞれりマシンではその情報を元に、走るアニメーションを再生させ、そのアニメーションに合わせて靴音を鳴らすことができます。靴音が鳴るタイミングが多少ずれていてもゲームプレイには関係ないのでネットワークを介して足音を同期させる必要はありません。

ケーススタディ:MotoGPでは5%の確立で相手を抜き去った場合、抜いた相手に向かって手を振り上げるアニメーションを再生します。クラッシュした場合、ライダーが吹き飛ぶ複数のアニメーションの中からランダムで再生され、ネットワークにはどのアニメーションを再生したかという情報は送られません。

あるプレイヤーから見ると手を振り上げたアニメーションをしているように見えますが、他のプレイヤー視点からはアニメーションが再生されていないという場合があります。クラッシュシーンでライダーの転がるアニメーションはそれぞれのプレイヤーによって違うアニメーションが再生されます。

これらをネットワークを介して同期するにはネットワーク帯域が足りませんでした。しかし、これらのアニメーションはゲームプレイには関係無いものなので、誰も同期していないということには気づきませんでした。

同じように、FPS等のゲームでは撃った弾の位置、壁に当たったときにできる弾痕の位置、飛び散るガラス片や薬莢の位置を同期する必要はありません。ここでネットワークに送る情報は単に 「私はゲーム内で銃を撃っている」 というブーリアン(bool)の情報だけです。このシンプルな情報を元に、各マシンではそれぞれにシミュレーションを行います。多少の違いが起きても、それらの平行世界で起きている事柄がほぼ同じである限りは問題がありません。

 

一度、この 「データをネットワークに送らなくても良いんだ」 という考え方が身につくと、いろんな事ができるようになります。

ケーススタディ:Moto GPで広告看板やパイロンはコース脇に配置されています。もしバイクがこれらのものと衝突した場合、バイクと一緒に吹き飛びます。もし、ゆっくりとした速度でぶつかった場合は看板やパイロンを押し動かすことができます。

殆どのプレイヤーはレースに勝つことが目的で真剣にレースに参加しますが、中にはレースの邪魔をしようとするグリファー(訳注:オンラインゲームで嫌がらせをするプレーヤーのこと、英語ではGriefer、griefには深い悲しみ、悲痛といった意味があります)がいます。グリファー達はコースを逆走したりして、どうやったらレースをメチャクチャにできるのかを競っています。

グリファー達は広告看板やパイロンをコースの中央に動かしてバリケードを築けることに気付きました。これで真剣にレースをしているライダー達がバリケードに衝突して派手にほこりを撒き散らしながら吹き飛ぶ筈です。

でも、実際にはグリファー達の思い通りにはいきませんでした。

広告看板やパイロンの位置情報はネットワークを介して送られてはいませんでした。単に充分なネットワーク帯域が無かったからです。

以下は実際にあったことです。

  • あるグリファーはバイクを前後に動かしながら、ゆっくりと障害物を押し進めます
  • ピア・ツー・ピアを使っていたので、そのグリファーは自分のバイクの動きを完全にコントロールできます。
  • 他のマシンでは予測アルゴリズムを使っているので、グリファーのバイクの座標は大体一緒ではありますが、完全に一緒ではありません。
  • グリファーのマシン上ではグリファーの思い通りに障害物はコースの真ん中へ移動します。
  • 他のマシンでは最初の押しが少しだけ左にずれました。この段階では障害物の位置はグリファーが移動させた位置に近いですが一致している訳ではありません。更にグリファーが障害物を押し進めるうちにグリファーが実際に移動させた位置とはズレが生じ、最終的に他のマシン上では障害物はグリファーと当たらない位置に移動して、そのまま動かなくなります。それらの障害物の位置は同期されていないので、この矛盾は修正されません。

結果

  • グリファーのマシン上では立派なバリケードが完成、他のマシン上ではバリケードができていない
  • レースを真剣にしている人達のマシン上ではバリケードが無いので問題なくレースを楽しむことができます。
  • 一方、グリファーのマシン上では立派なバリケードがあるので他のプレイヤー達はグリファーの思惑通りにバリケードに衝突してライダーは派手に中に舞い、バイクは火花を飛ばしながら滑っていきます。そのしばらく後に新しい情報がネットワークから届きます。あれ?実際には衝突は起きていなかった?この時、吹き飛んだはずのプレイヤーはコース上に配置され、問題なくレースは続行されます。

100万人ものプレイヤー達が何時間もプレイしたにも関わらず、誰もこの矛盾には気づきませんでした。

グリファーは盛大なクラッシュシーンを見て喜び、

真剣にレースをしている人達は無事にレースを終えることができ、

みんないつまでも幸せにレースを楽しんだとさ、めでたしめでたし

原文:
http://blogs.msdn.com/shawnhar/archive/2008/01/01/network-compression-just-say-no.aspx