組込み機器とクラウドの融合 – 電力の見える化をテーマに


まずは、3月11日の地震で被災された方、心よりお見舞いを申し上げます。また亡くなられてしまった皆様、謹んでご冥福をお祈りいたします。

3月11日に品川のオフィスが大揺れに揺れた時でさえ、まさかこんな大事になるとは、正直思ってもみませんでした。
地震が発生してからずっと惨状が刻々と伝えられる中、IT系の同僚や沢山のボランティアの皆さんが、被災地を支援するサイトを作成・提供している姿を見つつ、私のロールと立場で出来ることは何かを考えてみました。今すぐ何か出来ることは少ないのですが、これから暫く続くであろう電力不足や、(もう二度とこんな事態が発生しない事を望んでいますが)万一同じような事態が将来発生したときに同じ状況が発生しないよう、未来に向けてIT系、組込み系両方、皆で出来ることについて考え、まとめてみました。

ご存知の方が多いと嬉しいのですが、「電力見える化」をテーマにしたソリューションのデモを各社と共同で開発し、ET2010やENEX2011など様々なイベントでの展示や講演をしてきました。この活動は、「組込み機器とクラウドの融合」をテーマに2009年から創めたエバンジェリズム活動の一環として行ってきた普及啓発活動であり、富士ソフト、ディジインターナショナル、デバイスドライバーズ各社との連携で、Win7 Sensor & Location Platform+Windows Azure+Silverlight RIA+.NET Micro Frameworkといった製品やテクノロジーを組合わせて作ったものです。元々の狙いは、マイクロソフトが提供するテクノロジーを組み合わせて、何か役に立つものを作って、新しい技術の紹介と、「既存の製品・技術を組み合わせるとここまで出来るよ」、という事実を皆さんに知っていただきたい、活用していただきたい、という動機から創めた活動です。創めた当初も、その時”たまたま”、ZigBeeでPCに接続できる電力センサーつきテーブルタップが利用できたので、選んだ素材である、というのが本当のところです。

初披露は、2010年1月開催のTechDays2010でのキーノートデモでした。その後も各社の皆さんの協力を得て、機能の拡張を続けてきましたが、皆さんの反応は、「確かに面白いけど、電力の見える化が出来ると何が良いの」というもの大半でした。加えて、2011年2月のENEX2011に展示したあたりでは、コンセプトレベルでは十分な機能を有するレベルに達し、今後どう進めていこうかと、実は悩んでいるところでもあったのです。使用技術は全てが即利用可能な技術で構成されており、コンセプトレベルでは既に完成の域に達しており、後は実ビジネスでの採用を待つばかりでした。
一方で、電力インフラ系では「スマートグリッド」が実用化に向けて徐々に進行し、各地で実証実験が行われています。しかし、それなりに立ち上がりを見せているようですが、一般世間の反応は、「インフラが貧弱でしょっちゅう電気が止まる米国なら流行るかもしれないけど、電気が安定に供給されている日本には必要ないのでは?」という意見を多く聞いていたのも事実です。

この状況は、3月11日を境に一変してしまいました。世界で一番安定していると思われた日本の電力網は地震による被害でダメージを受け、計画停電が本当にに行われてしまい、電車は間引き運転や運休が発生、方々で明かりが消え、食料や乾電池の買占め発生など、停電によって様々な事態が発生してしまいました。被災していない区域での買占めやパニックの発生は、なにより被災地の復興の足を引っ張りかねません。20世紀後半からの文明は電気が基盤である事を改めて思い知らされた次第です。
しかし、今振り返ってみれば、実は、猛暑の年には電気需要増大による計画停電の恐れはこれまでもあったし、何より限られた石油資源や二酸化炭素排出問題など、電気の使用方法を見直す必然性は、実は、昔からずっといわれ続けていたことだったんですね。変な表現ですが、スマートグリッド的なものの意義が、まさに、”腑に落ちた”というのが実感です。

もし、現時点において、電力会社から各家庭・店舗・事業所などの電気需要が把握でき、需要と供給のバランスで、それぞれ個別に通常の8割だけ電気を通電、更には、太陽光発電や風力発電であまった電気を地域で融通しあう、といったことができたとすれば、家庭の電気が完全に停電してしまう現状の計画停電はある程度回避されたのではないでしょうか。これが、正に「スマートグリッド」の役割といえるでしょう。この地震を境に、スマートグリッドや電力の見える化の重要性が非常に高まったと感じている方は非常に多いのではないでしょうか。今回の事態を受けて、今後、「スマートグリッド」の実用化と普及は加速するのでないでしょうか。
※私はスマートグリッドの専門家ではないので、間違いがあったらごめんなさい。

では、「スマートグリッド」さえあれば、それで全てOKなのでしょうか?私はさらに2つの観点が必要に思えます。それは、以下の2つの観点です。

  • 家庭やオフィス内での電力の見える化
  • 既存のITシステムとの連携

私の理解が正しければ、「スマートグリッド」のカバー範囲は、発電所と送電網、そして家や建物の電力メータまでです。「スマートグリッド」を扱った記事や講演も、殆どそんな感じを受けるものばかりです。
しかし、一般の家の住人からすれば、「通常の8割になるとして、ではどこを消そうか」と、そして、「じゃぁどの機器が実際どれだけの電力を喰っているの?」と思うのが当然の流れでしょう。本当の意味で電気を有効に消費するには、単に家や建物単位の電力消費量の把握だけでなく、個々の家電製品がそれぞれどれだけの電気を消費しているかをきちんと把握する事は重要です。電力の消費状況を見える化して確認できたうえで、適切に該当機器を選んで電源をオフにすることができれば、電子レンジで料理の途中、不注意でブレーカーが落ちて料理を台無しにしたり、不必要に多くのスイッチを切った不自由な生活をしなくて済みます。
また、電化製品は、例えば冷蔵庫が十分冷えている時と庫内を冷やしている時では電力の消費量が異なるように、ずっと定常的に同じ値の電力を使用する機器はあまりありません。
つまり、ある時点でのリアルタイムな消費電力の把握ができるだけでは不十分であり、通常の電力使用量の分析を通じて機器ごとの電力消費傾向を把握し、「見える化」しておく必要もあります。もちろん、太陽光発電や風力発電の発電量(時間傾向服務)、蓄電池への充電率も「見える化」が必要なのは言うまでもありません。

家電機器の消費電力把握の分野では、HEMSという名の下に、徐々に実用化が進められてはいるようです。しかしこちらもインフラ系と同様、その殆どが専門のプロトコルと専用のハードウェアを使った、専用システムとして開発されているが現状のようです。その為、インターネット上のサービスとPCやスマートフォンとつなぐのと同じ方法では、家電機器とPCやスマートフォンをつなぐことは難しいのが現実です。消費電力表示用の専用機器を作る事も考えられますが、限られたハードウェアリソースのデバイスで、多岐に渡る家電機器や、用途に応じた電力消費量の見せ方に応じたアプリケーションを提供する事は、なかなか難しいでしょう。
一方で、既に一般家庭ではインターネットの普及が約7割弱、パソコンは9割弱(どちらも総務省調べ)に達し、加えて、スマートフォンが凄い勢いで普及している現実があります。それらのユーザーの方は、スマートフォンやタブレットで個々の機器の電力を見たいなと思ったことがある方も大勢いるでしょう。既にある、これらの既に一般に普及している汎用機器を利用しない手はありません。(ENEX2011の時には、我々の展示場所を取り囲む、様々なHEMS機器がWebサービスの様に連携できればなぁと会場で夢想していました)

私のコラム「組込み機器とクラウドの融合」で紹介した様に、電化製品を既にあるネットワークにつなげて"Device as a Service"として論理的な部品として使えるようにし、アプリケーション実行環境はPCスマートフォンタブレット等に任せ、使い勝手の良いユーザーインターフェイスで操作できるアプリケーションを提供する、そんなアーキテクチャはいかがでしょう。
この様な構成になっていれば、用途に応じた電化製品ごとの消費電力の見せ方も工夫できるし、猛暑や災害発生など、状況に合わせたアプリケーションの開発・配布も簡単に出来ます。何より、組込み技術者は専用システム部分を、アプリケーションはIT技術者が担当する事で、お互いの専門領域に集中できるのではないでしょうか。

そして、通常のネットワークに電化製品を接続し、インターネットとつなげてしまえば、インターネット上のサービスと、家電機器の電力消費状況を組合わせたアプリケーションやサービスを構築する事も可能です。例えば福岡スマートエナジーコンソーシアムのケースでは、天気予報の情報をネットワークから取得し、そのデータに基づいて、発電された電気の逐電や利用を行うシステムの実証実験が進められていたりします。他にも既にインターネット上には、簡単なプログラミングでアクセスしデータを取得できる多数のサイトが存在しています。それらサービスとと組合わせれば、アイデア次第で有用なアプリケーションやサービスを、より簡単に構築する事ができるでしょう。加えて、電力インフラ系システムもインターネットにつながり、一定レベルの情報をネットで利用可能になっていれば、信頼性がおけて精度が高いより便利なサービスを開発でき、一般ユーザーが使えるようになるに違いありません。

加えて、それぞれの場所で温度や大気圧、湿度、照度、衝撃、人のいる・いない・・・等々、電力消費量以外の環境情報も加えれば、気候に応じた電力消費量のコントロールや、それぞれの部屋の使用状況と環境状況にあった、きめ細かな電力量消費制御等も可能になります。そしてそれらのセンサー情報を、インターネットにフィードバックして、複数のデータを組合わせれば、地域ごとの特性把握や、特性に応じた制御も可能になるでしょう。更には、それらセンサーデータを加工して、全く別の応用分野が開ける可能性もあります。

更には、PCやスマートフォンと同じように、家電機器も後からアプリケーションを追加・更新できるようなプラットフォームになっていれば、災害時や、猛暑による電力不足の際に、その時々の状況に応じてアプリケーションを配信し、災害復興用のクラウドサービスとの連携で、被災地の復興に役立てられるサービスを迅速に提供できるのでは、(もちろん被災地で家屋が倒壊した状況では機能しないのは判っていますが、被災地以外で無用な混乱を抑える事には役立つのではないでしょうか?)と思うのです。
実際、地震が起きた当日はネットワークで様々な情報を交換できたし、多くの企業やボランティアのIT技術者が既存のサービスを活用しながら災害復興に向けた様々なサービスを、数日のうちに立ち上げていきました。そのスピード感たるや素晴らしいものでした。その様を目の当たりにして、インフラ系や組込み機器も、活用可能な部品として組込む事が出来たら、今回活躍した彼らは(そして自分も)、それら部品も組込んだ、より有効なサービスの構築しようとしたに違いありません。

勿論、電力消費や各種センサーデータはその殆どが個人のプライバシーに属するデータであり、セキュリティの問題や、機器間接続の為の標準化、専用システムとIT系システムの境界をどうつなぐか、耐障害性や稼働率、各種法律の壁の問題など、多くの課題があり、それらを一つ一つ解決して実現していかなければなりません。これから復興が始まる中、インフラや家屋や建物の再構築がなされされていきます。様々な新しい試みが行われる事でしょう。その試みの中には「スマートグリッド」の活用も入るのではないでしょうか。その際、単にインフラだけの閉じた視点、組込み機器の視点からの閉じた取り組みだけでなく、PCやスマートフォン、インターネット、各種ネットワーク上のサービス等一般に普及したものとの連携を、是非考慮に入れていただければと願っています。そうすれば、組込み技術者の活躍だけでなく、Windows系を含むIT系開発者の活躍の場も広がる事と思います。

その際、プラットフォームの一部にでも、組込み機器にはWindows Embedded.NET Micro Framework、PCやスマートフォンではWindows系の各種機能、ネットワークではWindows AzureやBPOS、WindowsLiveなどを採用いただいて、微力ではありますが、貢献してければと願っています。
普段でしたら、この後に、それぞれの製品・技術が、どこに嵌っていくかを詳細に解説するところですが、この投稿では触れず、別の機会で語っていきたいと思います。

今後、今活動中の「電力の見える化」をテーマにしたコンセプトデモをベースに、今回説明したコンセプトの実現を手助けする方向で活動を継続していこうと考えています。ご賛同いただける皆様、ご協力いただければと存じます。今後ともよろしくお願いいたします。

私が生まれ育って青春時代をおくった東北地方の、一日も早い復興を祈っております。

Comments (3)

  1. nasutetsu より:

    大変興味深く拝見させて頂きました。

    災害発生後、多くのIT技術者が素晴らしいシステムやサービスを提供していることをみて

    組み込み技術者はこんな時何もできないなと無力さを感じておりました。

    組み込み技術者として将来のあるべき(まだ分かりませんが)電力系システムのために

    動いてみようとこの記事を読んで考えました。

  2. Osamu Arai より:

    電力の見える化を調べていて日経ソフトの201110月号の記事を見ました。ZigBee

    受信機、テーブルタップ用デヴァイスドライバの入手方法など分かりません。

    教えてください。

  3. Osamu Arai より:

    電力の見える化を調べていて日経ソフトの201110月号の記事を見ました。ZigBee

    受信機、テーブルタップ用デヴァイスドライバの入手方法など分かりません。

    教えてください。

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