コミックマーケット(略称:コミケ)のシステムを支えるエンジニアたちの物語 ~前編~

まえがき

コミックマーケットは年に 2 回開催される世界最大級のイベント。2012 年にマシン リソースを素早く増減できるクラウド、Microsoft Azureの採用を行いました (記事: [導入事例]コミケ Web カタログ)。

その後、C83 から C89 にかけて、計 6 回のイベント開催を経験。果たしてクラウド化は本当に効果があったのか、サービス開発・運用を担当する有限会社サークルドットエムエス 開発統括 堀口 政史 氏 (写真左)、技術統括 田邊 浩靖 氏 (写真中央)、取締役社長 佐藤 一毅 氏 (写真右) にお話をお伺いします。

今回も聞き手はマイクロソフトの増渕です。

インタビュー

コミケWebカタログを作る経緯

増渕: さて、C83 でデビューした、コミケWebカタログも、だいぶ進化しましたねー。Azure 上にサービスをリリースされてから 3 年、6 回のイベントを経験しました。皆さんがここまでサービスを続けられた経験や今後の展開などをお伺いしたいと思います。まず、この記事を読む読者さんはコミケについての説明はいらないと思いますが、サークルドットエムエスをご存じない方がいるかもしれません。簡単に自己紹介をお願いします。

佐藤: よろしくおねがいします。サークルドットエムエスの代表を務めております佐藤です。まず、サークルドットエムエスは、コミックマーケット準備会 (以下、準備会) をサポートする IT 組織で、対象業務は、同人誌即売会のサークルの申し込み、同人誌即売会の出展しているサークルの一覧を並べてカタログをつくること、それと、コスプレイヤーさんの皆さんの情報を集めて当日の運営がはかどるような情報を提供するシステム開発、運営しています。

増渕: サークルさん情報の管理ですね。開発しているシステムは店舗管理システムのような類のものですか?

佐藤: いえ、どちらかというと、チケッティングのシステムに近いです。チケッティングといっても、抽選当落は、準備会の役割なので、僕らはエントリーの受付や割り付けられた場所の表示だけです。抽選はこの会社ではやっていないので。あと、一般的には直接表に出ていませんが、日本中のコミケイベントで使うカタログの制作サポートなどもしています。

増渕: 制作というのは、つまり、組版、インデザインみたいなものを使っている業務ですか?

田邊: 自動処理化しているので、インデザインみたいな作業ものではないです。PDFがバッチ出力イメージで、ライブラリはマイクロソフトさんの Reporting Services (SSRS) です。ウェブにまだ全員が移行しているわけではないので紙ベースの業務も残っていますので、紙をスキャンして、斜め補正色補正をして、サークルカットを取り出してデータベースに格納しているのです。 (注: 「サークルカット」 とは、サークルが参加する 直接参加する際に、「カタログ」に掲載される、アイコン目的の小さな絵です)

増渕: 申し込み量からするとデジタル化の効果は絶大ですよね。えーと、3万件でしたっけ。

佐藤: 申し込みは 50000 件で、うち 36000 くらいが当選です。それまではすべて手作業ですよ (笑)。申し込みの封筒、書類、原稿の 3 つをバラバラにして、コード管理するためにバーコードシールをペタペタと張っていったんです。20 人くらいが広い場所を借りて徹夜して…

田邊: 昔はもっとすごい!(注1)   コミケは 1975 年に始まりましたが、申し込みが始まったのは、10 年前です。C38 が 12 万人で翌年 1990 年の C39 が 23 万人、急拡大の時期に、僕らコミケの作業に大学生ボランティアとして参画し始めたんです。申し込み業務が始まって、僕らは PC-98 端末を持ち込んで、徹夜で入力作業をしていたんです。そこから 15 年くらい毎年 2 回はそういう運用でした。 

増渕: 同人誌業界を支える刺激的な物語ですね。

一同: 修行でしたねw

増渕: さて、コミケの壮大な話が面白いので、なかなかクラウド化に話がたどり着かないです (笑) コミケWebカタログはどんな思いで作ったものなんですか? やっぱり手作業から解放されたかったから?

佐藤: 昔からコミケでの情報エントロピーの高さには着目していまして、エントロピーをなるべく増やさないようにするための枠組みを作ろうと思っていたんです。個人ユーザーの視点からすると、最初から最後まで情報整理されていたいじゃないですか。即売会出店の申し込みから、当日のイベント参加、その後の情報の振り返り、という流れをシステムでサポートしたかったんです。

コミケの今とこれから

増渕: さて、コミケWebカタログは、画面をみるとこんな感じですね。"会場 MAP" などからお気に入りの作家さん (同人サークル) を探すことができ、ずばり自分の "お気に入り" として情報をストック、整理することができる。かなりユーザー数も増えているみたいですし、"コスプレ検索" などサービスも増えましたね。ユーザーの反応などいかがですか?

佐藤: 自分たちがいうのも変ですが、おかげさまでわりと好評をいただいています。C83 から利用者もだいぶ増えました。また当時は、C84, C85 など、イベント毎に別々に情報管理されていたのですが、いまは同じサークル ID であれば、過去の展示情報なども紐づいて一元管理できるようになっていて「便利になったね」という声をいただいています。

田邊: お決まりのネタですが、ユーザーが増えるとシステムの挙動が変わってトラブルになったりします。その点、Azure は、データベースの性能プランを変えることができるのが便利ですが、課金も増える~。まぁコミケは季節ものなんでたいしたことないですけどね。

堀口: Twitter や pixiv などの連携ですね。当初は Twitter からの情報連携がよかったのですが、コミケ ユーザーが API をたたきすぎたせいか、途中から使えなくなってしまいました。

増渕: ありましたねー。API については Twitter さんサイドなので、ここではコメントしづら…。

佐藤: ちなみに Web カタログは、年間に 30 ベントくらいホストしています。申し込みです。カタログは、2~3 個に提供しています。海外はまだ 1 つ、香港がありますね。

増渕: 香港! (石坂まことが喜びそうな話ですね!)

堀口: コミケのシステムは、当初は Web カタログだけだったのですが、今は 9 割が Azure に依存しています。まず、すべての情報のハブになる『サークルポータル』、『コミケWebカタログ』、『出展申し込みシステム』、『コミケコスプレコミュニティ』の 4 つと、地方や海外向けのシステム OEM 提供部分から構成されています。

突然、マイクロソフトのエバンジェリスト戸倉があらわれた!

戸倉 彩 (Aya Tokura, Technical Evangelist, Microsoft Japan)

2011 年に日本マイクロソフト株式会社に入社。現在、クラウドや開発ツールを中心にセミナーやハンズオン講師をしながらマイクロソフト テクノロジーの普及活動に努める日本マイクロソフトのテクニカルエバンジェリスト。コミケ大好き。

戸倉: 増渕さん! コミケさんのインタビューで私を呼ばないというのはありえなくないですか!?カラーさんのときも呼んでくれないとかヒドイ!

堀口: やぁ、戸倉さんじゃないですか。一緒に出てもらったらむしろ僕らうれしいですよ。

田邊: いいですねぇ、戸倉さんはマイクロソフトに入社される前からコミケ常連ですし一緒にコミケ文化の説明おねがいします。

佐藤: やった。

戸倉が仲間に加わった

増渕: (お、おう…)

 

 

ということで、コミケを支えるエンジニアス トーリー。第 1 回をお送りしました。世界最大級の催事・展示会であるコミケについて、後半は、エバンジェリスト戸倉も参加してより技術面にフォーカスした内容にしたいと思います。増渕が後半に必要なのかわかりませんがお話はもう少し続きます。乞うご期待。【続く】

 

 

 

 1) コミケに初めて PC-98 を持ち込んだのは同人誌研究家の イワエモン(岩田 次夫氏 )