フィードバックを基にタッチ操作でナレーターをさらに使いやすく

2 月に Windows 8 Consumer Preview をリリースする少し前に、障碍 (しょうがい) のある方にとって Windows 8 をさらに利用しやすくする取り組みについて、このブログで紹介しました。その記事では、全盲の方がタッチ スクリーンから Windows 8 を使用できるナレーターの機能についても紹介しました。この機能は Release Preview でも引き続き進化していますが、Windows 8 の最終リリースに向けて、さらに強化される予定です。今回の記事では、タッチ対応 PC を使う場合に、より便利になったナレーターの機能のいくつかについて詳しく説明します。この記事は、アクセシビリティ チームの Doug Kirschner が執筆しました。 -Steven


まずは、フィードバックを寄せてくださった皆さんにお礼を申し上げたいと思います。肯定的な反応が多数ありました。Windows 8 のタッチ スクリーンに基本のスクリーン リーダーが既定で含まれることを非常に喜んでいただいています。ナレーターのタッチ スクリーンでの動作を改善し、Web での操作性を向上するために私たちが取り組めることについて、膨大な数の建設的なフィードバックをいただきました。私たちは皆さんの声に耳を傾けました。皆さんのご提案と、視覚障碍のある方を対象に Microsoft で実施したユーザビリティ テストから得られた提案とを総合して、皆さんのお気に召すと思う、重要な変更をいくつか施しました。

アクセシビリティ コミュニティの声に耳を傾ける

私たちは Developer Preview がリリースされたタイミングに乗じて、できるだけ多くの、視覚的な支援を必要とされる方に呼びかけて、ナレーターに対するフィードバックを収集しました。手始めに、Windows 8 をインストールし、感想を送ってもらうよう、Microsoft 社内のコミュニティの協力を仰ぎました (さいわい Microsoft には、すべての Microsoft 製品のアクセシビリティに取り組んでいる大規模で組織的なコミュニティがあります)。また、会場に来れば実際に試すことができる、社内のアクセシビリティ イベントを開催しました。Microsoft のキャンパスにユーザーを招いて、タッチ スクリーン上でナレーターを実際に操作し、一般的な作業を実行していただくユーザビリティ テストも実施して、改良できる点を探りました。Developer Preview と Consumer Preview は数百万名にダウンロードされていて、多くの方がナレーターを試し、非常に参考になるフィードバックを送ってくださっています。さらに、@BuildWindows8 をとおしても多くのユーザーからコメントをいただきました。また、テクノロジと障碍者について考える CSUN カンファレンス (英語) に出席し、そこで Windows 8 Consumer Preview をタッチ スクリーンで初めてお使いになるようすを、お 1 人 1 人の横に座って拝見することができました。

私たちには、検証したかった重要なシナリオが 2、3 ありました。特に、タッチを使用する場合に、新しい PC を箱から取り出してすぐに、ナレーターを使って起動し、実行できることを確認したいと考えていました。これには、ストアからアクセシビリティ対応アプリを探してインストールすることや、電子メールの送信、Web ページの閲覧、音楽鑑賞など基本的な日常の作業を実行できることが含まれます。これまで私たちが実現した機能についての反響は圧倒されるほどで、非常に嬉しく思っていますが、タッチ対応のナレーターをよりよいものにするためにすべきことがまだあるのは明らかでした。

建設的なフィードバックを寄せてくださった皆さんのおかげで、以下のような重要な領域を特定できました。これらは、Release Preview で改良されています。

  • 応答性: タッチ スクリーン上ではナレーターの応答性が十分でないと感じられるというご意見をいただきました。
  • ジェスチャ: ナレーターのジェスチャ、特に、複数の指を使う複雑なジェスチャのいくつかを、スムーズに使っていただけない場合がありました。
  • アプリの探索: 特定のアプリや UI の知識がまだない場合は、画面上の特定の要素を見つける (スタート画面上のタイルを見つける) ことは難しい可能性がありました。
  • Web ナビゲーション: Consumer Preview で提供されていたコマンドは、一部の Web ページには十分に対応できませんでした。

Release Preview に向けて上記の各領域について懸命に取り組みました。一部の領域については、Windows 8 の最終リリースに向けて、現在も取り組みが続けられています。ここでは、現在 Release Preview で利用することができる、機能強化の一部をご紹介したいと思います。

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タッチ操作に対するナレーターの応答をわかりやすくする

ナレーターのタッチ機能は応答性が高いとは感じられないというご意見をいただきました。ナレーターが遅い、ナレーターが応答しないときがある、単に突然アクセスできなくなったと感じたり当惑したなど、フィードバックの表現はさまざまですが、この問題の根本原因は同じです。ユーザーは、画面にタッチするとき、タイムリーな応答を期待します。この問題は、次の 2 つのシナリオでよく発生することがわかりました。

  • 1 本指の探索: 1 本指でドラッグして画面上の項目を見つけなければならなかった場合に、指を動かすのが速すぎて、ナレーターが項目の読み上げを開始する間もなく、目的の項目を通り過ぎる場合がありました。
  • ジェスチャの応答: ジェスチャが成功したかどうかがわからずに、1 回目のジェスチャが既に成功しているにもかかわらず、同じジェスチャを何度も繰り返す方がいました。問題は、ナレーターがジェスチャを認識してから、音声応答を返すまでに遅延があることでした。また、ユーザーが意図した操作をナレーターが実行したかどうかが、応答からは明確に判断できないことや、似ているが関係のない内容が読み上げられているだけのことがありました。

いずれの場合も、視覚的には、ナレーターが現在読み上げている項目に移動するハイライト用の青い枠が、該当する項目にすばやく移動して、ナレーターはユーザーの動きを登録し、適切に応答していることが示されていました。ただし、問題は実際のスピーチ プロセスにありました。音声合成 (TTS) は高速ですが、高速であっても、システムが応答を読み上げるには時間がかかります。また、言語を処理し、聞こえてくる内容を理解するための、認識処理にも時間がかかります。さらに複雑なことに、音声応答にかかる時間は、コンテキストによって大きく異なります。このため、意図したジェスチャがナレーターによって認識されたジェスチャであるかどうかをユーザーが判別することは困難です。これらの短い遅延が積み重なった結果、項目を完全に飛ばしたり、最初のジェスチャが成功しなかったと考えて、成功しているジェスチャを繰り返したりします。

音声による合図

視覚障碍のないユーザーであれば、ある操作が完了するまでに数ミリ秒よぶんにかかったとしても、ボタンがハイライトされたり、ポップアップがアニメーション表示されたりする視覚的なフィードバックによって、システムは応答していることがすぐにわかります。このような合図は、美観的に好ましいだけでなく、リアルタイムでタッチがシステムにどのように影響するかを理解するために機能的にも重要です。

応答性に関するフィードバックについて詳しく調べるにつれて、ナレーターで音声の合図をより効果的に利用できることに気が付きました。Release Preview で、音声による合図の導入を始めました。各ジェスチャに、そのジェスチャが実行されたときに再生されるサウンドが関連付けられています。これらの合図は、すぐに反応し、再生時間が短く、容易に区別できるようになっていて、ジェスチャが成功したかどうかと、操作が実行されているかどうかを直ちに認識できます。以下に例を示します。

  • 次の項目に移動すると "チッ" と鳴ります。
  • アクティブになると "カチッ" と鳴ります。
  • スクロールをすると、スライド音が鳴ります。
  • 選択すると "トン" と鳴ります。
  • ナレーターのエラーでは、システム エラー時の "ティン" という音とは簡単に区別できる "ブッ" というエラー音が鳴ります。
  • 1 本の指で画面を探索していて、新たに項目をタッチするたびにナレーターがチッという音を鳴らすので、次の操作に移るのが早すぎて、項目の説明を聞けなかったのかどうかを知ることができます。

これらのサウンドの設計および実装には、非常に楽しく取り組むことができました。

対話式操作を簡単にする

今度は、ナレーターのタッチ操作モデルを調整する必要がありました。一部の方から、複数の指のジェスチャは使いにくかったという声を頂戴しました。特に、2 本指のスワイプで次の項目や前の項目になかなか移動できず、ましてや、4 本指のスワイプでのスクロールはさらに困難な場合がありました。また、誤ってコマンドの一覧 (利用可能な項目のコマンド、検索ウィンドウなど) を表示して、アプリでのコンテキストが失われることもありました。

そこで、より簡単にタッチ対応のナレーターを操作できるようにしました。より覚えやすいシンプルなジェスチャ モデルを採用し、より簡単に使用できるようになりました。1 本指のタップとフリックによって、ナレーターでよく使われるタスクの大半を実行できるようにしています。新しい対話式操作モデルは実行しやすく、ジェスチャがさらに論理的に分類されているため、コマンドの一覧やウィンドウに無関係のジェスチャを実行しようとしている場合にそれらが表示されることはありません。

以下の表に、新しい対話式操作モデルの概要を示します。

タッチ ジェスチャ

コマンド

タップまたはドラッグ

指の下にある項目の読み上げ

ダブルタップ または

1 本目の指で長押しし、2 本目の指で任意の場所をタップ

メインの操作を実行

トリプルタップ または 1 本目の指で長押しし、2 本目の指でダブルタップ

サブ操作を実行

左または右にフリック

前の項目または次の項目に移動

上または下にフリック

動作の大きさを変更

1 本目の指で長押しし、他の指で 2 本指のタップ

ドラッグまたはその他のキー オプションを開始

2 本指のタップ

読み上げの停止

2 本指のスワイプ

スクロール

3 本指のタップ

ナレーターの設定ウィンドウの表示/非表示

3 本指で上にスワイプ

現在のウィンドウの読み上げ

3 本指で下にスワイプ

現在の位置からテキストを読み上げ

3 本指で左または右にスワイプ

前後にタブ移動

4 本指のタップ

現在の項目のコマンドを表示

4 本指のダブルタップ

検索モードの切り替え

4 本指のトリプルタップ

ナレーターのコマンド一覧を表示

4 本指で上または下にスワイプ

セマンティック ズームの有効化/無効化 (セマンティック ズームを使うと、より多くの領域が表示されてコンテンツを俯瞰できます)

ナレーターの探索モデルを改良する

Developer Preview のユーザーからのフィードバックを収集した結果、ナレーターの探索モデルを見直しました。1 つ明確にわかったのは、画面全体をいちいちタッチしなくても、ボタン、ラベル、テキスト フィールド、リスト項目など、画面上のすべてのコントロールを簡単に確認できる手段が求められているということでした。目の不自由なある方は、ホテルの部屋に入ったら、何かをする前に必ず最初に部屋の中を歩き回り、ドア、ドレッサー、ベッド、洗面所の場所を確認して、部屋のレイアウトを把握すると、たとえを使って説明してくださいました。同様に、新しいアプリを探索するときは、画面上に何があるのかを確認してから、次に実行する操作を決定します。

Developer Preview では、画面上のすべての要素をアクセス可能にする手段の 1 つとして、横方向のスワイプ ジェスチャを使うと、コンテナー内の項目間を移動でき、縦方向のスワイプ ジェスチャを使うと、コンテナーの内外に移動できるようになっていました。これは、画面上にあるすべてのアクセシビリティ対応の項目を見つけることができる強力なモデルで、グラフィカル UI の構造を忠実に表していました。しかし、これは直感的ではありませんでした。コンテナーへの出入りが必要なことで、画面上にある興味深い要素のすべてを発見するのが困難になっていました。

既定のカーソル モードを変更する

フィードバックに応えて、Release Preview では、既定のナビゲーションの動作をいくつか変更しています。ナビゲーションのジェスチャはすべて 1 本指の左右のフリックになり、これだけで画面上のすべての項目間を移動できるようになりました。UI の構造を知らなくても、UI のナビゲーションができるようになりました。フリックだけで次の項目や前の項目に移動でき、ナレーターによって、画面上の重要な項目が順番に示されます。

これにより、アプリ内の興味深い項目を簡単な手順で順番にすべて確認でき、アプリを探索しながら任意の項目を操作できます。いちいちフリックせずにアプリ内のすべての項目が読み上げられるようにする場合は、3 本指で上にスワイプすると、ナレーターが順番にすべての項目を連続で読み上げます。

(注: これは、ナビゲーションの新しい既定のモードで、左右のフリックによってアプリを探索でき、興味深い項目をすべて見つけることができます。UI の複数のレイヤー間を手動で移動する以前の方法を使いたい場合は、ナレーターの設定でナレーター カーソルの移動モードを [Advanced] (上級者用) に変更してください)。

Web ナビゲーションを強化する

Windows 8 では、ナレーターを使って Web の読み上げが格段に簡単になりました。Web の読み上げ用に最適化されたさまざまな機能があり、たとえば、"読み上げを開始する" コマンドでは、Web ページ上の連続しているセクションが中断せずに読み上げられます。また、検索モードを使うと、ページ上の各種コマンドが列挙されます。Developer Preview と Consumer Preview のリリース後に、これらの機能は便利だが、ニュースのヘッドラインをすばやく確認する、クイック検索を実行する、株価を確認するなど、Web で実行する一般的な作業のいくつかを実行できないというご意見をいただきました。

そこで、この機能を見直すことにしました。詳しく調べるにつれてこれらのシナリオについての理解が深まり、Release Preview でどのように改良したらよいかがわかりました。特にニュースの読み上げでは、ページ内のさまざまなポイント (ヘッドラインやリンクなど) に移動し、その後 1 行ずつ、さらには 1 文字ずつ読み上げできるようにしたいというフィードバックをいただきました。多くのユーザーが、ナレーターがこれらのコマンドを提供し、より正確な Web ナビゲーションが可能になることを望んでいました。

そこで、ナレーターのナビゲーション コマンドにビューの概念を追加しました。新しいビューは、Web ページや、メール アプリ内などその他のアクセシビリティ対応のテキスト領域を表示している場合に、既定のナビゲーション モードで利用できます。既定の項目ビューでは、ページ上の項目間を移動でき、システムの項目ナビゲーションと同様に動作します。ただし、Web ページやメールなどのアクセシビリティ対応のテキスト領域の場合、ナレーターは 7 種類のビューを新たにサポートしています。

  • 見出し
  • リンク
  • 段落
  • 単語
  • 文字

上または下にフリックすることでビューは簡単に切り替えられます。また、左または右にフリックすると、ビュー内の項目間を移動できます。これらのコマンドは、キーボードで CapsLock キーと方向キーを使うことでも利用できます。

新しいビューが導入されたことで、Release Preview では Web の読み上げがさらに便利になりました。新しいビューは、ナレーターの読み上げコマンドとも連携しています。たとえば、面白そうなニュースのヘッドラインを見つけて、もっと内容を知りたい場合、3 本指で下にスワイプすると、ナレーターがすべてのページ コンテンツの読み上げを開始し、停止を指示するまで読み続けます。

しあげをする

ここで紹介した例は、Developer Preview および Consumer Preview のナレーターのタッチ機能を試した方からのフィードバックに応じて取り組んだ大規模な機能強化の一部です。項目をアクティブにする方法を伝えるタッチ ヒントの読み上げ、タッチ操作で使いやすく改良されたナレーターの設定 UI、タッチ キーボードからの入力を簡単にする新しい設定の追加など、皆さんのフィードバックを基に、他にも多くの機能強化を施しています。現時点で、ナレーターはフィーチャー コンプリートの状態であると思っていますが、Windows 8 の完成に向けて、現在もバグの修正と微調整を行っています。

ナレーターを試す機会があった皆さんから、これほど多くのフィードバックを頂戴することは、すばらしいと同時に、いたらなさを痛感する経験でもありました。ユーザビリティ テストを通じて、CSUN カンファレンスで、また Microsoft のコミュニティ内で、ユーザーの方 1 人 1 人と交流できたことは本当に楽しい体験でした。建設的なすばらしいフィードバックを寄せてくださった皆さんのおかげで、Release Preview に向けて、ご紹介したような重要な変更をナレーターに実施し、利便性を大幅に向上できました。

Windows 8 の最終リリースに向けて開発作業が進められるあいだ、皆さんはぜひ Release Preview をダウンロードしてインストールし、ナレーターをお試しください。

注: このブログで説明したタッチ機能には、少なくとも 4 つのコンタクト ポイントをサポートするタッチ スクリーンが必要です。Windows 8 認定タッチ ハードウェアはすべてこの要件を満たすことになりますが、現在の Windows 7 ハードウェアの中にはこの要件を満たさないものがある可能性があります (詳細についてはこの記事を参照してください)。4 つのコンタクト ポイントをサポートするタッチ スクリーンをお持ちでない場合も、キーボードを使ってナレーターを実行できます。

お読みいただき、ありがとうございました。

-Doug Kirschner